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福岡地方裁判所 昭和43年(行ウ)1号 判決 1968年7月12日

原告 因幡和己

被告 農林大臣

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告の申立

原告が昭和四二年八月二二日なした福岡県知事の同年六月二四日付訴外西日本鉄道株式会社を譲受人とする農地法第五条の規定による農地転用許可に対する審査請求に対し被告がなんらの裁決をしないことは違法であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告の本案前の申立

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

三、被告の本案に対する申立

原告の請求を棄却する。

第二、原告の請求原因

一、原告は福岡市大字土井一二番地の二付近で約一町五反歩の耕地を所有(以下原告所有農地という。)し農業に従事しているものであるが、昭和四二年八月二二日付で原告は被告に対し前記申立どおりの審査請求(以下単に本件審査請求という。)をした。

二、原告の本件審査請求の理由は大体つぎのとおりである。

(一)  訴外西日本鉄道株式会社は福岡市大字下川原地区に自動車修理工場の設置計画をたて、昭和四一年一〇月頃から同地区で農地買収交渉をなし昭和四二年三月上旬頃訴外川添夘太郎ほか二名所有にかかる福岡市大字土井四六五番地田七四七平方メートルほか四筆(以下対象土地という。)を買受けるべく、福岡県知事に対し農地法第五条の規定による農地転用のための所有権移転許可の申請をした。ところで原告所有農地は対象土地の周辺に位置し、対象農地が農地以外に転用されると原告所有農地に通ずる水路がふさがる等原告は右許可につき利害関係を有したため、福岡県に対し再三にわたり右事情を陳情し反対の意思を表明してきた。しかして、福岡市農業委員会は本件転用許可申請に対し「水路設置許可のあること」を条件に許可すべきであるとの意見を呈示した。

(二)  ところが福岡県知事は昭和四二年六月二四日付をもつて「付近の農地に被害のないように措置すること」を条件としてこれを許可した。

(三)  しかしながら右許可処分は以下のいずれかの理由により違法である。

1 本件許可をするにつき福岡県知事は利害関係人である原告の承諾を得るべきところ右手続をとつていない。

2 本件許可をするにつき分科会を設けあるいは諮問手続をとりその当否を慎重に審査すべきところ、分科会は設けられず、諮問は本件許可処分後である昭和四二年六月三〇日になされている。

3 本件許可は条件が付せられているが、右条件は表現が極めて漠然としており、対象土地上に水路設置が許可されることを条件とするとの福岡市農業委員会の前記意見にそわないし、農地法による耕作者保護の趣旨にも反する。

(四)  さらに対象土地の譲渡人訴外川添夘太郎は元来農業に従事しておらず右土地所有権移転は農耕従事を条件として許可を受けたにかかわらずわづか二年余りでこれを譲渡したことから、同訴外人は当初から右土地の有利な転売を企てていたことが推測されるところ、福岡県知事は右事情を十分審査することなく本件許可をなしたものでありこの点からも右許可は不相当である。

以上の諸点により本件許可処分は違法あるいは不相当として取消されるべきであるとして本件審査請求をした。

三、しかるに、被告は裁定期間内である昭和四二年一一月二一日を経過しても原告の本件審査請求に対しなんらの裁決処分をしない。しかしながら原告は右許可処分により対象土地から原告所有農地に通じる水路を閉鎖され農耕に著しい被害をこうむることになるので被告の不作為を漫然とこれ以上放置しておくことができないのでその違法確認を求めるべく本訴に及んだ。

第三、被告の答弁

一、本案前の答弁

原告は被告に対し農地法第五条の規定による許可取消を本訴請求としていたのにこれを被告に対する行政不服審査法に基づく審査請求についての不作為の違法確認を求めるとの訴に変更しているけれども、農地法に基づく行政庁の処分の取消と行政不服審査法に基づく審査請求に対する不作為の違法確認請求とは法的基礎が異なり請求の基礎に変更があるから不適法として却下されるべきである。

二、被告の主張

行政不服審査においては簡易迅速な手続により行政庁の処分を不当としてそれにより権利の侵害をこうむる国民の権利利益の救済をはかるを目的とするが、右審査裁決にあたつては当該処分の適法性ないし妥当性についても慎重なる審査を要し特に事実関係が不服申立の内容をなす場合などには相当の審査期間を必要とするものであり、このことは行政不服審査法に裁決期間を法定していないことからもうかがえる。被告は鋭意裁決事務の適正迅速な処理に努めんとするも、申立を不適法として却下する場合を除き通常審査のため一年ないし四年の期間を要している。右裁決事務処理の実情によると申立から一年に満たない本件の場合にいまだ裁決がないことをもつて不作為の違法があるということはできない。

第四、証拠<省略>

理由

一、まず被告の訴変更不許の申立について判断する。本件訴の変更は同一被告に対する訴の客観的変更であつて行政事件訴訟法第二一条所定のごとく当事者変更を伴うものでないから、専ら請求の基礎に変更があるか否かによつて判断しなければならない。被告は原処分の取消請求と原処分に対する不服審査請求の裁決の不作為違法確認とは別個の法律に基づく権利であり法的基礎を異にすると主張するが、右は事実上関連する請求であることが明白であり請求の基礎を共通にするものと解するのが相当である。よつて被告の右主張は理由がない。

二、そこで本案につき判断するに、審査請求に対する裁定期間が法定されていない場合でも請求後相当の期間内に裁決をしないときは違法たるを免れないことはいうまでもない。

ところで、原告が昭和四二年八月二二日付で被告に対しその主張の審査請求をなしたこと、被告がこれに対し、いまだなんらの裁決をしていないことは被告の明らかに争わないところである。原告は被告が昭和四二年一一月二二日までに許否の裁決をしないのは違法であると主張するが行政不服審査法は裁決期間を規定していないから右主張は理由がない。しかし、これは相当の期間内に裁決がないことの違法確認請求と解するのが妥当であるけれども、本件審査請求から口頭弁論の終結した昭和四三年六月一四日まで一〇か月未満である本件被告の審査期間は他に特段の事情が認められない限り社会通念に照して違法ということはできない。

よつて、右不作為の違法確認を求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岩崎光次 高橋弘次 葛原忠知)

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